歯ぎしり、食いしばりにマウスピースは効果があるの?
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歯ぎしり(ブラキシズム)は多くの人が経験する無意識の習慣であり、歯の摩耗や顎関節症の原因となるため、その管理にはしっかりとした対策が必要です。一般的にマウスピース(ナイトガード)が治療として推奨されますが、今回はその効果とデメリットを科学的な視点で掘り下げ、一般的な情報に留まらない点を紹介します。
マウスピースの科学的効果
1. 咬筋の抑制と咬筋力の調整
マウスピースを装着することで、咬筋(噛むための筋肉)の力を抑制する効果が報告されています。マウスピースは噛み合わせの力を分散させるため、歯への直接的な負担を軽減しますが、実際には咬筋の活動を減少させ、長期的には筋力の適応変化が生じることが示されています。
一部の研究では、長期間にわたるマウスピースの使用によって咬筋の過剰な発達が防がれるだけでなく、筋肉の使い方が再学習され、ブラキシズムの頻度や強度が自然に減少することが報告されています。これは、ナイトガードの装着がただ物理的に歯を守るだけでなく、咬筋の神経的な活動パターンに影響を与え、筋肉疲労を軽減する効果があるためです。
2. 歯の再石灰化と保護
マウスピースの装着により、歯ぎしりの摩耗によるエナメル質の損傷が防がれ、歯の再石灰化を促進する効果も期待できます。エナメル質が損傷すると、内部の象牙質が露出し、虫歯のリスクが高まりますが、マウスピースによってこのリスクが減少します。また、唾液の分泌が促されるため、唾液中のミネラルがエナメル質を再構築する役割を果たし、歯の健康維持に貢献します。
3. 顎関節症(TMJ)の予防
顎関節症(顎関節の痛みや音がする症状)は、歯ぎしりによって引き起こされることが多いですが、マウスピースの使用により、咬筋にかかる過剰な負担が軽減され、顎関節にかかる圧力が減少します。この結果、顎関節の炎症や痛みを予防する効果があります。
また、マウスピースは顎の位置を適切に保つことで、関節のズレを防ぎ、筋肉や関節への負担を均等に分散させます。この調整効果は、顎関節症を抱えている人にとって特に有益です。
専門的なデメリット
1. 細菌の繁殖と虫歯のリスク
ナイトガードは毎日使用するため、清潔に保つことが非常に重要です。しかし、多くの人がマウスピースの適切な清掃を怠り、細菌や真菌の繁殖が問題となります。特に、湿気や口腔内の温度が細菌にとって理想的な環境を提供するため、マウスピースが雑菌の温床になることがあります。
特に注意すべきは、ストレプトコッカス・ミュータンスなどの虫歯菌が増殖しやすく、歯に装着することで二次的な虫歯のリスクが高まる点です。マウスピースは直接歯に密着するため、清潔に保たれていない場合、プラークが蓄積し、歯の表面に長時間留まることで虫歯が進行しやすくなります。
2. 口腔内の乾燥と唾液のバランス
マウスピースを使用することで、口腔内の自然な唾液の流れが一時的に阻害されることがあります。唾液は口腔内の酸性度を中和し、歯の再石灰化を助ける役割を果たしていますが、マウスピースの長時間の使用によって唾液の分泌が低下し、口腔内が乾燥しやすくなることがあります。
口腔内が乾燥すると、虫歯や歯周病のリスクが増加し、特に寝ている間に唾液の流れが少なくなる夜間は、このリスクが高まります。また、唾液が減ることで、細菌の増殖も促進されるため、口腔環境のバランスが崩れることになります。
3. 噛み合わせの変化と顎の不調
長期間にわたるマウスピースの使用は、噛み合わせに影響を与える可能性があります。特に、適切にフィットしていないマウスピースを使い続けると、歯列や顎の位置が変わり、咬筋や顎関節に負担がかかることがあります。これは、一部の患者で顎関節の痛みや不快感を引き起こし、逆に顎関節症を悪化させる原因となることもあります。
また、顎の筋肉が適応しすぎると、マウスピースを外した後に自然な噛み合わせに戻るのが難しくなる場合があります。これにより、咬合不全や歯の過度な摩耗が生じることがあります。
4. 素材アレルギーと炎症
マウスピースの素材に対してアレルギー反応を示すケースも少なくありません。一般的なマウスピースはポリカーボネートやアクリル系の樹脂で作られてることもあり、これらの材料に対してアレルギー反応を起こす人もいます。このアレルギーは口内の炎症や、長期間の使用で慢性的な口内の不快感につながることがあります。
マウスピースは、歯ぎしりの物理的な保護や、咬筋の適応的な再教育、顎関節症の予防に効果的である一方、細菌の繁殖や噛み合わせの変化といったリスクが伴います。これらのリスクを最小限に抑えるためには、適切な清掃と定期的な歯科医によるフィッティングの調整が不可欠です。専門的な視点からも、マウスピースは短期的な治療効果が期待できる反面、長期的な使用には慎重なケアが必要です。