食いしばりや歯ぎしりが「つらい時」はお酒は飲まない方がいい科学的な理由
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毎日の飲酒が引き起こす意外な影響。楽しさが感じにくく、不安に敏感になる脳のメカニズムと、食いしばりの関係について
はじめに:
お酒を飲むと気分が良くなり、ストレス解消になると感じる方も多いのではないでしょうか。しかし、毎日の飲酒は脳の働きを少しずつ変化させ、予想外の影響を及ぼすことがわかってきています。今回は、特に「楽しさを感じる力」と「不安やストレスへの反応」に焦点を当て、さらにそれらが思いがけない形で顎の健康に影響を与える可能性について解説します。
お酒と脳の関係
私たちの脳には、様々な働きを調整する神経伝達物質が存在します。特に「ドーパミン」と「セロトニン」という2つの物質は、気分や感情、体の動きのコントロールに重要な役割を果たしています。アルコールの習慣的な摂取は、これらの物質のバランスを崩してしまうことが研究でわかっています。
ドーパミンへの影響 :楽しさが感じにくくなるメカニズム
お酒を飲むと、快楽や多幸感を感じる報酬系の神経伝達物質 ”ドーパミン” が簡単に分泌します。するとすぐに楽しい気分になれます。でも毎日飲んでいると、身体がそれに慣れてしまい、楽しい気分になりたいがためにより多くのアルコールを身体が求めてしまいます。
簡単に言えばこれはアルコール中毒なのですが、お酒でドーパミンを簡単に出す事に慣れてしまい(麻痺ともいう)、通常なら感じる事のできる些細な嬉しいことや、楽しい事が普段の生活では感じる事ができなくなってしまいます。酒飲みが怒りっぽいのはこういった理由があるのです。
でも今回はこの作用がなぜ「食いしばり」や「歯ぎしり」「エラの張り」を引き起こすのかを考えてみました。
長期実験は行っていないので、あくまでも推論となるのですが、アゴラック開発期のたくさんのモニターになって頂いた方達のお話と、各国の論文をまとめると以下の流れが有力で、実際に断酒をした数名のモニターの方は「食いしばり」や「歯ぎしり」「エラの張り」が改善されました。
ドーパミン機能低下と脳の代償メカニズムが引き起こす「食いしばり」「歯ぎしり」について、以下のようにまとめられます:
- 通常時の脳の動き:
- ドーパミンを使って適切な強さの運動指令を出す
- 筋肉からのフィードバックを正確に受け取る
- スムーズな筋肉の動きを実現
- ドーパミンが低下すると:
- 脳は筋肉の動きが足りないと勘違い
- その結果、必要以上に強い指令を出す(食いしばりや、歯ぎしり)
- 実際の必要量の150-200%の力が出てしまう
- 特に顎の筋肉は影響を受けやすい理由:
- 細かい動きが必要
- 常に重力に逆らって動いている
- 感情の影響を受けやすい
- 結果として起こる問題:
- 不必要な力が入る(結果、エラが張ってしまう)
- 筋肉が疲れやすくなる
- 痛みが出やすくなる
セロトニンへの影響 : 不安に敏感になるメカニズム
ドーパミンと同じくセロトニンも脳から分泌される神経伝達物質です。よく世間では「幸せホルモン」と呼ばれて、皆さんも馴染みがあるかもしれません。
この神経伝達物質の働きを、もう少し詳しく説明すると、精神の安定や安心感、平常心、頭の回転をよくして直観力を上げるなど、脳を活発に働かせる鍵となる物質です。もしかしたらこの説明のほうが「幸せホルモン」より、腑に落ちる読者の方も多いかもしれません。
上記のドーパミンと同じく、慢性的な飲酒によりこのセロトニンの生産量は低下してしまいます。セロトニンは心を落ち着かせるブレーキの役割なので、これが減少すると心の落ち着きを失い、ストレスに対して過敏になってしまいます。
セロトニン不足が引き起こす「食いしばり」「歯ぎしり」のメカニズムは以下の流れが考えられます。
1.ストレス応答の増加:
セロトニンが減少すると、ストレスホルモンであるコルチゾールの分泌が増加し、これが食いしばりのトリガーとなる可能性があります。(※コルチゾールとはストレスによって分泌される神経伝達物質の一種で、過剰に分泌されると脳の海馬を委縮させたり、うつ病、不眠症なのの精神疾患を引き起こす)
2.筋肉の過緊張:
セロトニンの低下により、筋肉の緊張が緩和されにくくなり、咬筋の異常収縮が生じる可能性があります。
3.睡眠障害:
セロトニンは睡眠の質を維持するために重要です。飲酒によるセロトニンの減少は睡眠の質を低下させ、これが「歯ぎしり」を悪化させる可能性があります。
まとめ
慢性的な飲酒は、脳内の物質バランスを崩すことで、思いがけない形で心身に影響を及ぼします。特に「楽しさを感じる力」の低下と「不安への敏感さ」の増加は、顎の問題とも密接に関連していることがわかってきました。
もし食いしばりや歯ぎしり、エラの張りでお悩みの方は、飲酒習慣を見直してみることで、症状が改善する可能性があります。ただし、これらの症状でお悩みの場合は、必ず専門医への相談をお勧めします。
※本記事の内容は、科学的研究に基づいていますが、個人差があります。症状がある場合は、必ず医療専門家にご相談ください。
参考文献
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